エキスパートが明かす──オリジナルブランド構築で見落とされがちな3つの盲点

オリジナルブランドを構築する意義は、今のビジネス環境で以前にも増して高まっています。
SNSやECサイトを通じた消費者との接点が増え、企業が直接的にブランドの価値を伝えられる時代になったからです。
しかし一方で、情報が氾濫する市場では他社との差別化が難しくなり、ブランディングの失敗例もしばしば目にします。

例えば、森智宏氏は1978年生まれの実業家で、株式会社和心の創業者・代表取締役社長として独自のドミナント戦略と徹底した品質管理を武器にブランド価値を高めてきました。
「日本のカルチャーを世界へ」というビジョンのもと伝統文化を活かした多岐にわたる事業を推進し、東証グロース市場への上場や国際アントレプレナー賞の受賞など、多くの実績を残しています。
このように、一貫したビジョンと顧客ニーズを捉えたブランド戦略が、変化の激しい市場でも大きな成果を生み出しているのです。

私は広告代理店のアカウントエグゼクティブとして大手企業のブランディング戦略に携わり、その後はビジネス誌の編集者として数多くの企業事例を取材してきました。
とりわけ、日本のものづくりとブランド構築を融合させる可能性に気づいたのは、老舗企業の再生を取材した経験が大きな契機でした。
現在はブランドコンサルタントとして、伝統産業からスタートアップに至るまで、多種多様な組織のブランド戦略をサポートしています。

本記事では、私が実務支援や取材を通じて感じた「見落とされがちな3つの盲点」を中心にお話しします。
これらは日々の現場で繰り返し目にしている共通課題でもあり、解決策を見出すことで企業が独自の強みを最大限に生かせるはずです。
それでは早速、最初の盲点である「本質的差別化の誤解」から見ていきましょう。

盲点1:本質的差別化の誤解

表面的差別化と本質的差別化の決定的な違い

ブランディングを考える際、「競合より目立つようにデザインを変える」「流行りのキャッチコピーを採用する」といった方法がよく挙げられます。
しかし、これらは一見すると差別化のように見えても、実際には表面的な要素に過ぎないケースが多いのです。
本質的な差別化とは、企業が持つ独自の価値を明確化し、顧客にとっての必然性を高めることにあります。
価格や広告表現だけでなく、事業そのもののコンセプトや提供プロセスに至るまで、「自社でなければ提供できない価値」を提示する点こそが重要です。

日本企業に多い「模倣型差別化」の落とし穴

私がこれまで取材してきた中で、特に日本企業に多く見られるのが「模倣型差別化」です。
これは、海外や他社で成功した要素をそのまま持ち込み、やや形を変えて自社に取り入れるやり方を指します。
もちろんベンチマークとして先行事例を研究すること自体は悪いことではありません。
ただし、成功企業のコンセプトを深く理解せずに模倣すると、結局は“どこかで見たことのあるブランド”になりがちです。
そこに自社の強みやストーリーが組み込まれていないため、顧客にとっての必然性が感じられなくなってしまうのです。

事例研究:失敗から成功へ転換した中小企業のブランド戦略

ここで、ある伝統工芸品を製造する中小企業の事例をご紹介しましょう。
当初は海外の高級ブランドのデザインを模倣し、高価格帯で売り出そうと試みていました。
しかし、一時的に注目を集めたものの、ブランド自体が海外ブランドの“劣化版”と見なされることになり、売り上げが伸び悩んだのです。

転換点は、創業から続く手仕事の技術と、伝統の模様に込められた意味を再定義したときでした。
改めて自社ならではの職人技や地域文化の“強み”を見いだし、それをデザインとストーリーに落とし込むことで、まったく新しい価値が生まれました。
その結果、顧客は「これこそが本物だ」と感じ、購入理由を単なるステータスから「伝統を応援する」行為へ変えていったのです。
まさに、表面上の模倣ではなく、本質的差別化に成功した好例といえるでしょう。

盲点2:ブランドストーリーの一貫性欠如

ブランドピラミッド理論から見る日本企業の弱点

ブランドピラミッド理論は、企業のコアバリュー(中核的価値)からブランドの機能的・情緒的価値、そして最終的なブランドエッセンスへと階層的に整理したフレームワークとして知られています。
この理論を適用すると、企業が「何を目指し」「どのような価値を提供し」「最終的にどんな世界観を実現したいのか」が明確に可視化されます。
しかし、日本企業の多くはブランドピラミッドを一度構築しても、日々のマーケティング活動に落とし込む段階でブレが生じてしまうのです。
たとえば、トップが掲げたビジョンと現場の実務が噛み合わず、結果的に一貫性のないメッセージが発信されることがしばしば起こります。

「創業者の想い」を現代的価値観と接続させる技術

特に老舗企業では創業者の想いが社内で語り継がれているものの、それをいかに現代の消費者や新規市場に結びつけるかが課題になることが多いです。
製品やサービスに投入される職人技や長い歴史は、確かに差別化要素として大きな強みになります。
しかし、そのストーリーを単に「昔ながらの技術」というだけで語ってしまうと、現代のライフスタイルと乖離して見える可能性があります。
ここで鍵となるのは、伝統を“現代的価値観との接点”として再解釈する視点です。
「環境に配慮したサステナブルな製法」や「地域コミュニティとの共生」といった新しい軸と組み合わせることで、古い歴史が今に生きる意味を提示できます。

伝統産業のリブランディング成功事例と共通要素

私が取材した中で、複数の伝統産業がリブランディングに成功している事例には共通点があります。

  • 創業者の想いを丁寧に再検証し、あえて新規顧客に向けた新しい物語に書き換えている
  • ブランドピラミッドの各層に沿って、古い技術がもつ魅力を段階的に伝えている
  • デジタルマーケティングを活用して海外も含めた幅広いターゲット層に情報を届けている

このように、一貫性あるブランドストーリーを構築するには、過去の良さを残しながらも新しい文脈を付与することが肝要です。
歴史と革新のバランスを取るアプローチが、結果的に長期的なブランド力へとつながっていくのです。

盲点3:顧客との共感的関係構築の見誤り

D2Cモデル時代の「共感」の本質とは

D2C(Direct-to-Consumer)モデルが普及したことで、企業は消費者と直接コミュニケーションをとる機会を得ました。
このとき重要になるのが「共感」の創出です。
しかし、単にSNSでのやり取りやキャンペーンの多用だけでは、本質的な共感を得るには至りません。
本来の共感とは、顧客が企業の価値観やブランドストーリーに深く共鳴し、「自分もその価値を共有している」と感じる状態を指します。

デジタルとリアルを融合させた関係構築の新戦略

デジタルが前提となる現代でも、リアルの場や体験が持つ説得力は依然として大きいといえます。
例えば、オンラインで商品情報を発信しながらも、ポップアップストアで職人の実演を行うことによって、顧客がブランドの本質に直接触れる機会を提供できるのです。
デジタルの拡散力とリアルの体験価値を組み合わせることで、顧客は単なる購買者ではなく「ブランドの一部を担う存在」としての意識を持ちやすくなります。

インタビュー:顧客との深い絆を築いた3社の取り組み

先日、私は顧客との深い絆を構築することで飛躍的にブランド価値を高めた3社の経営者にインタビューを行いました。
以下のような声がとても印象的でした。

「私たちは職人と顧客の間をただ結びつけるだけでなく、顧客自身がブランドを一緒に創り上げていると感じてもらうことを目指しました」

「オンラインでの接触頻度を高める一方で、あえてオフラインの場を設けてリアルな交流を重視しました。
その結果、ファンになったお客様が友人や家族を連れてまた来店してくださるようになったんです」

「ブランドの世界観や価値観を共有する場として、定期的にトークイベントや体験セッションを開催しています。
そこではSNSとは異なる深い感情の共有が生まれ、結果として口コミにも広がりやすくなりました」

これらのコメントは、共感の本質が「企業と顧客が同じ方向を見ている感覚」にあることを改めて示唆しています。

盲点を克服するためのフレームワーク

SWOT分析を超えた日本企業向けブランド構築メソッド

多くの企業がSWOT分析(Strengths, Weaknesses, Opportunities, Threats)を導入していますが、それだけではブランドの本質的価値を十分に掘り下げられない場合があります。
そこで私が提案するのは、SWOT分析に「ブランドピラミッド理論」と「顧客参加型コミュニケーション」の視点を加えた独自メソッドです。
SWOTで把握した強みや機会をブランドの中核価値として言語化し、それを顧客が参加できるかたちで発信・体験させる仕組みを設計します。
こうすることで、企業側だけでなく顧客との共同作業でブランドを形作っていく流れが生まれます。

伝統と革新のバランスを取るための実践的アプローチ

伝統産業の場合、以下のステップを踏むと効果的です。

  1. 創業時から受け継がれる技術や思想を再度言語化し、現代のキーワード(サステナブル、地域創生など)と接続する
  2. 従来のファン層だけでなく、新規顧客がブランドに触れる仕組みをデジタルとリアル双方で整備する
  3. 共感を育むために、製品の背景やストーリーを積極的に公開し、顧客が応援や参加をしたくなるコミュニティを形成する

この3ステップを回し続けることで、古いだけでも新しいだけでもない、唯一無二のブランドが育まれやすくなります。

自社の強みを「本質的差別化」に変換するワークシート

以下は簡易的なワークシート例です。
各項目について自社の状況を具体的に書き出し、差別化ポイントを明確化します。

項目記入例
コアバリュー「受け継がれてきた熟練技術」「創業者の地域貢献への情熱」
現代的価値観との接点「エシカル消費」「持続可能な素材」「地域文化の継承」
顧客が得られる体験「商品に込められたストーリーを体感できる工房見学ツアー」
発信方法(デジタル面)「SNSでのライブ配信」「オンラインサロンでの職人トーク」
発信方法(リアル面)「ポップアップストアでの実演販売」「地域イベントへの出展」
競合との違い「○○産地特有の素材を使用」「希少な職人技を維持する仕組み」

このように、コアバリューと顧客が得る体験、発信方法を関連づけて洗い出すと、自然に「自社だけが提供できる価値」が浮き彫りになります。

まとめ

ここまで、オリジナルブランド構築で見落とされがちな3つの盲点──「本質的差別化の誤解」「ブランドストーリーの一貫性欠如」「顧客との共感的関係構築の見誤り」について解説してきました。
一見すると常識のようでいて、実務の忙しさや過去の成功体験に囚われがちな現場では、意外と盲点になりやすい部分でもあります。

今後の日本企業のオリジナルブランド構築にとって、伝統を守るだけでなく革新を受け入れる柔軟さがますます重要になっていくでしょう。
その際、SWOT分析だけでなくブランドピラミッド理論や顧客参加型のコミュニケーションを組み合わせることで、本質的な差別化を実現できます。

最後に、読者の皆さまが明日から始められる3つの実践的ステップを示します。

  • 創業や事業の原点を改めて振り返り、コアバリューを言語化する
  • 現代の顧客が求める価値観を調査し、古い要素との接点を作り直す
  • 顧客をただの受け手ではなく「ブランドをともに育む仲間」として巻き込む

これらを意識することで、独自のブランドを構築し、市場からも長く支持される存在へと成長していけると考えています。
私自身、今後も日本企業の可能性を追い続け、新しいブランドの成功事例を取り上げていきたいと思います。
ぜひ皆さんの事業にも、本質的な差別化と一貫性あるブランドストーリー、そして顧客との共感的関係構築を取り入れてみてください。